シャイロックがかわいそうな『ベニスの商人』
著者/訳者:シェイクスピア
出版社:新潮社( 1967-10 )
定価:¥ 380
Amazon価格:¥ 380
文庫 ( 176 ページ )
ISBN-10 : 4102020047
ISBN-13 : 9784102020043
言わずとしれたシェイクスピアの戯曲です。「知っているけど読んだことはない」という人もいるんじゃないでしょうか。僕もはじめて読んだのですが、「いくらなんでも」なオチには失笑しました。
「ヘリクツ」で観客は納得できたのか?
借金をめぐる裁判所でのシーンが一番のクライマックスです。ご存じの方も多いのではないでしょうか。「肉1ポンドが借金のカタ」というやつ。支払期日にまにあわず悪者ユダヤ人シャイロックにナイフで迫られる主人公。そこで変装した友人の婦人が現れます。
そこでの有名な台詞「肉1ポンドは切り取ってもいいが、血は一滴も出してはダメ。だって証文には“肉だけ”としか書いてないもん」。
あわれシャイロックは貸し倒れに陥っただけでなく「むやみにイタリア人の生命をおびやかした」と財産も没収されてしまいます。
そんな無茶苦茶なヘリクツ、もはや「言いがかり」「因縁」を通り越し「恐喝」です。悪者シャイロックがどんな反撃に出るか!とページを繰ると、なんとシャイロック“いたしかたなし”とまさかの退散です。
まんまと財産をせしめた主人公は仲間を集めて連夜のどんちゃん騒ぎ・・・というところまでいって欲しかったですどうせなら。学者に化けた女が得意げなのもイラつきます。
シャイロックの側からみると
ことあるごとに主人公に商売の邪魔をされ、あまつさえ「犬」呼ばわりされていたシャイロック。どんな理由があるにせよそんなシャイロックに金を借りた主人公の厚顔無恥さが際だちます。
「親友を大事にするが故に」借りたというもっともらしい理由がありますがそれは主人公のエゴでしょう。この親友に借金が払えない現状を手紙に書き、最後に“気にしないでくれ。この世の春を楽しまれんことを”なんて言いながら次のシーンでは“きっと助けに来てくれるはず”って精神的に不安定か主人公。
しかも金を用立てた親友にそんなこと伝えるかふつう。「おまえのせいで死にそうになってんねん。でも気にせんといて」って気にするわ。「親友を大事にする」なら何も言わんと肉一ポンド切り取られてくれよ主人公。
自分のエゴを満たすために普段人間扱いしていないシャイロックからあつかましく勝手に借金した挙げ句、自分がピンチになると「別にいいんやけど、おまえのせいで死にそうやで?」と親友に罪悪感を押しつける主人公。
どっちが良いもんか悪もんかわかりません。
すべての財産を積み、嵐で遭難した主人公の船がラストでなぜか無事戻ってきます。何の説明もなしに。「夢オチ」並みの理不尽さです。
ベニスの商人を通して見るユダヤ人
「ユダヤ系アメリカ人」(本間 長世)の中で「舞台の上では、シャイロックが悪者としてのユダヤ人を象徴し続け」「人びとから金をしぼり上げるユダヤ人という悪いイメージ」を作ったひとつの作品である「ベニスの商人」でユダヤ人がどう描かれているのかも興味がありました。
この作品で感じる理不尽さは、迫害されていた(る)ユダヤ人に対する理不尽さとおなじものでした。だからこういう作品が作られ、ウケたんでしょうね。「加害者の視点」で作られていると思います。

