
野獣死すべし (光文社文庫―伊達邦彦全集)
著者/訳者:大薮 春彦
出版社:光文社( 1997-01 )
定価:¥ 620
Amazon価格:¥ 620
文庫 ( 363 ページ )
ISBN-10 : 4334723489
ISBN-13 : 9784334723484
言わずと知れた大薮 春彦の代表作。松田優作主演の映画も有名です。
思わず吹き出してしまうおもしろさ
まず、映画版の主演が松田優作ということでもわかるようにハードボイルドです。真剣な作品です。けっしてコメディではありません。
それなのになぜ何度も吹き出しそうになるのでしょう。
電車でずっとニヤニヤしてしまいました。
作者の本気度は本宮ひろしに通じる
読んでいて頭に浮かんだのが『魁男塾』『サラリーマン金太郎』でおなじみ本宮ひろしです。作者の登場人物への無条件な入れ込み具合と無茶苦茶な状況設定がそっくりだと思います。
荒唐無稽だけど大まじめ。
主人公の伊達はきっとフンドシをしめています。
ハードボイルドですから主人公は当然いろんなピンチに陥ります。
絶体絶命のピンチ、“あきらかに死ぬやろ”という状況、「どうするんかな」とページをめくると“なんとか切り抜けた”の一言だけで切り抜けてしまいました。
“それは物理的にムリやろ”という殺人的スケジュール、「さすがにこれはムリやで」とページをめくると“邦夫は超人的にそれをこなした”という一文だけでこなしてしまいました。
作者のこの豪腕振り。漢(おとこ)らしい。
「超人的に」って自分もちょっとムリがあると思ってるやん。
こんな無茶苦茶な進め方ですが、作者の本気度にグイグイ引き込まれてしまいます。
この描写はいるんか?
ちなみに主人公に狙われた標的(ターゲット)はほぼ例外なく失禁し、あまつさえ「脱糞」までしてしまいます。
「脱糞」て。人は生命の危機を感じると脱糞してしまうんですね。逆に括約筋なんかは緊張で締まると思っていましたが。勉強になりました。
きっと作者は「生理的現象に及ぶ」恐怖を描写しているのでしょうが逆効果です。
登場人物が失禁する度に「またか!」と大笑いです。「脱糞」までされた日にはたまりません。
作者の立ち位置というか視点というか
作者が主人公を見る目線や描写する目線はキリストや仏陀、マホメットでも良いですが、「数々の奇跡を起こすカリスマ」の行動を横でノートに記録する従者のようです。
大藪春彦は主人公の伊達を本気で“すごい”と思っていると思います。心から。
このイタさがたまらん。
文体に慣れるだけ
最初は大薮 春彦独特の“ハードボイルド文体(あるんか?)”に馴染めず、“読みにくいなぁ”と思いましたがすぐに慣れました。慣れれば先には抱腹絶倒の世界が待っています。楽しみ方としては間違っているかもしれませんが。
ハマる人はハマると思う
ぼくが感じるおもしろさは“ここまでバカらしいことを本気で大まじめにしている”おもしろさで、すこし穿った読み方です。多くの方がこの作品に感じる面白さではないかも知れません。
少なくともこの本を読んで電車で声を出さずに笑う努力をした人も少ない気がします。
断っておきますが、ぼくは馬鹿にしているのではなく、本気でおもしろい、すごいと思っています。
なかなかこんなの書ける人いない気がする。入り込める力があるというか。
すっかり魅了されてしまいましたので、『蘇える金狼』『汚れた英雄』も読んでみよう。