gain.maru2.jp

通勤で夢中になれる文庫本ブログ
Category: 小説 — written by tsujio 12.01.23.(月) 22:36

橋本治「巡礼」とコロッケのモノマネ

巡礼 (新潮文庫)

著者/訳者:橋本 治

出版社:新潮社( 2012-01-28 )

定価:¥ 515

Amazon価格:¥ 515

文庫 ( 289 ページ )

ISBN-10 : 4101054177

ISBN-13 : 9784101054179



コロッケがモノマネする森進一は、森進一の特徴を拡大しすぎていて、「モノマネ」というより「バカにしている」と感じる。良い意味で。
テレビで観るニューハーフやオカマは、「こんな女おらんやろ」というくらい女性の特徴を大げさに真似ている。

初めて橋本治を読んだのは「桃尻娘」で、僕は大学生の2回生でした。
女の人と接した経験も少ない状態で読んだその本の主人公は、まさに「女の子はこうあって欲しい」と男子が想像する理想的な女性だったと思います。

主人公が経験する「女の子の青春」に、「ええなぁ・・・」と憧れの気持ちで読んでいました。
そんな甘酸っぱい女の子の青春物語を書くのが、イノシシみたいな金髪おっさんだと知るのは割とすぐのことです。

「巡礼」が表現するもの

上記したように、僕にとって橋本治とは「女の子以上に女の子らしい人物を書く作家」という印象です。捉えた特徴を誇大に表現すると言うか。

そういう意味でニューハーフの仕草やコロッケのものまねと近いものを感じます。

そんな橋下治が書くこの作品「巡礼」が誇大表現しているのは何かというと、「家族」だと思います。
 「ゴミ屋敷に住む主人公」を通して「家族の絆」を描くというのは、巨大な体と毒々しさで妙にリアルな女性性を醸しだすマツコ・デラックスと同じである、という結論はどうでしょう。

ダメですか。

お約束、だけども。

でも橋本治はぜったい「哀愁」っつーか「哀しさ」っつーか「ペーソス?」っていうのを出してくるんですよね。
来るぞ、来るぞ、来るぞ、ホラ来た!案の定か!って思っててもやっぱり読んでてじんわり来るという。

「子供+下ネタ=大爆笑」みたいな「方程式」をガッチリ抑えてる作家だと思うのです。

..................................
Category: 小説 — written by tsujio 10.05.15.(土) 20:02

『砂の女』安部公房の感想

砂の女 (新潮文庫)

著者/訳者:安部 公房

出版社:新潮社( 2003-03 )

定価:¥ 546

Amazon価格:¥ 546

文庫 ( 276 ページ )

ISBN-10 : 410112115X

ISBN-13 : 9784101121154


友人の画家に「何かオススメの本は無いか?」と聞き、「すごく色彩豊かに感じる本」と薦めて貰ったのが安部公房『砂の女』です。

読み終わっても余韻がしつこく残る

読んでみると、「先を早く読みたくてページをめくる」のではなく、「この閉塞感からはやく抜け出したくてページが進む」、という感じでした

安部公房はよく知りませんでしたが、“『箱男』を書いた人”というので“ああ、あの変なのを書く人”とピンと来ました。

この本は安部公房の代表作のひとつらしいので、あらすじを知っている人は多いかと思います。

“主人公がなぜか砂丘に住む女の家から出られなくなる”というのが大まかな設定、ストーリーです。
 舞台は砂丘なのになぜかジメジメした感じで、“砂混じりのしけったセンベイを食べている”ような不快感があります。

イメージはモノトーン

 舞台となる砂丘のイメージのせいか「色彩豊か」という印象は受けませんでした。

 浮かんだイメージはモノトーンで、“つげ義春の作品にありそう”、と強く思いました。 漫画化するならタッチは劇画タッチでしょう。

 椎名誠が何かの本で

“手塚治虫がSF作家、つげ義春が純文学作家だったら、文学界の様相もずいぶん変わっていただろう”

なんてことを書いていたのを思い出しました。
何を言いたいのかというと、[つげ義春=文学=安部公房]というムリヤリな公式によって“『砂の女』と「つげ義春」を結びつけたぼくは決して間違っていないでしょう、むしろアリでしょう”と自分のイマジネーションを正当化したいわけです。

文庫もいいけど映画もね

総天然色ではなく白黒のイメージです。『砂の映画』、じゃなかった『砂の女』の映画(1964年 第17回カンヌ国際映画祭 審査員特別賞等を受賞)は若かりし岸田今日子が主演ですが、原作のイメージに忠実な配役だと思いました。

..................................
Category: オススメ本,小説 — written by tsujio 09.12.17.(木) 07:48

『海と毒薬』遠藤周作?戦争捕虜の生体解剖と日本人

海と毒薬 (新潮文庫)

著者/訳者:遠藤 周作

出版社:新潮社( 1960-07-15 )

定価:¥ 380

Amazon価格:¥ 380

文庫 ( 208 ページ )

ISBN-10 : 4101123020

ISBN-13 : 9784101123028



 第二次世界大戦末期、九州の大学付属病院で行われた「米軍捕虜の生体解剖事件」。
 実在の事件をテーマに「日本人とはいかなる人間か」を問う作品。

日本人だから、日本だから起きた事件か

 テレビで見た「竹島は韓国のものだ」と抗議の割腹をする韓国人。「大学入試で不正が行われた」と路上に寝ころびバタバタ暴れながら絶叫する受験生の母親たち。

 たまたま二つとも韓国の映像でしたが、これを見てそれまであまり考えなかった「国民性」を意識するようになりました。
 特に割腹抗議は大々的に取り上げられましたね。

 竹島に抗議しての割腹でしたが、「韓国 割腹」で少し検索してみると他にもありました。

 “韓国は「詫びる」場合ではなく「抗議」する時にハラキリをする国なのか”
 そんなことを考えてしまった遠藤周作『海と毒薬』。
 この本のテーマ、「日本人とはいかなる人間か」について考えました。

『海と毒薬』のストーリー

 1945年九州帝国大学(現在の九州大学)を舞台にして行われた米軍捕虜生体解剖事件。
 解剖に参加した医師は単なる異常者だったのか、いかなる心理状態がこのような残虐行為に駆り立てたのか。

 戦争末期で「みんなが死んでいく世の中」、「病院で息を引き取らぬ者は、夜ごとの空襲で死んでいく」ような状況下でも行われる大学病院教授間の権力争い。

 忌まわしい、ショッキングな事件を通して「日本人とはいかなる人間か」という問いがテーマとして掲げられます。

ナチスドイツの人体実験

 このブログでも取り上げた開高健の『最後の晩餐』内にも記述がありますが、「戦争捕虜への生体実験」となるとすぐにナチスドイツが思い浮かびます。

 上記内容を読むと、方法や種類は違いますが、「人間をモルモット化した」という点で同じです。

 “どのくらいのことをすると人間は死ぬのか”というのが共通してある実験テーマだと思います。

 血を大量に抜いてみたり塩水だけ飲ませてみたり。

 しかしここまで入れてしまうと「日本人とはいかなる人間か」を飛び越えて「人間とは何か」にまで拡がってしまい頭がオーバーフローしてしまいます。

 調べれば他の国でもちがう形で行われていたかも知れませんし。

『海と毒薬』と遠藤周作からの問い

 「こんな酷い行為が出来る日本人ってなんだろう」と思考が頭にこびり付くぐらい、この本が掲げる「問い」は大きいです。

 もやもやします。

 遠藤周作はこの本に続く第二部を「いつかは完成させねばならぬ」とエッセイ(『秋の日記』)に書いていますが、果たせぬまま亡くなっています。

 また、本作は1986年に奥田英二・渡辺謙主演、熊井啓監督で映画化され1987年の「第37回ベルリン国際映画祭・銀熊賞審査員グランプリ部門」を受賞しています。

海と毒薬 デラックス版 [DVD]

販売元:パイオニアLDC( 2001-12-21 )

定価:¥ 4,935 ( 中古価格 ¥ 6,800 より )

Amazon価格:¥ 14,490

時間:123 分

1 枚組 ( DVD )


..................................
Category: 小説 — written by tsujio 09.12.14.(月) 07:52

「斜陽族」を生み出した太宰治の代表作、『斜陽』

斜陽 (新潮文庫)

著者/訳者:太宰 治

出版社:新潮社( 2003-05 )

定価:¥ 357

Amazon価格:¥ 357

文庫 ( 244 ページ )

ISBN-10 : 4101006024

ISBN-13 : 9784101006024



 太宰治が「傑作を書きます。大傑作を書きます」と執筆する際に言ったと云われる作品(Wikipediaより)。2009年5月に佐藤江梨子主演で映画化されています。

1948年の流行語、「斜陽族」とは?

 チラリと聞いたことのある言葉「斜陽族」。これをもじった「社用族」(会社の経費で飲み食いしたり交通費を賄う人たち)なんて言葉は現在でも使われていますね。

 意味は
「時勢の変化についてゆけずに衰えた上流階級」(goo国語辞典)
 とあります。

 終戦3年後の1948年、「上流階級」は日本に存在していた“当たり前の”言葉だったんですね。
 こんな言葉が「流行語」になるなんて。
 
 本作では没落した「貴族」が主人公ですが、現在でも「貴族」は居るんでしょうか。
 「貴族の家系」ではなく現在進行形の「貴族」。洋館に住んでいて「お手伝いさん」ではなく「召使い」のいる。みんな「日没」しちゃったのかしら。

 今盛んに取り上げられている「セレブ」は「上流階級」というより「成金」と言った方がピッタリきますし。

「貴族協会」って。

 “そもそも貴族の定義はなんなんだ”、と調べてみるとおおなんてこった、「日本貴族協会」なるものがあるじゃないか。

 貴族協会・・・「貴族」なのに「協会」とはこれ如何に。「貴族協会」なのにサイトが無料のジオシティーズ上に作られているとはこれ如何に。

 サイトには「新時代における新貴族を創る新貴族制度の提唱を致します」とあります。

 新貴族。新貴族制度。

 気になる言葉がたくさんありますがキリがないので詳しくはサイトをご覧下さい

 「文化先進国として発展を遂げるため」「新時代における新貴族を創る新貴族制度の提唱を致します」とのことです。

そんなことより『斜陽』のストーリーだ

 「お母さま」と娘の「かず子」、息子の「直治」、それに作家の「上原」。
 作品は「かず子」の独り語りで進行していきますが、それぞれを主人公として「没落していく」、「落ちていく様」が描かれています。

 その中でも聖女のように描かれている「お母さま」と、不良息子である「直治」とは対称的です。

 「お母さま」の優雅な仕草と、生活感を感じさせない様子は「これが“上流階級”か」と想像するには充分でした。

直治と太宰治

 「不良」として描かれている直治と太宰治がダブって見えます。
 「貴族(直治)」と「大地主(太宰)」であり、両者とも薬物中毒です。

 自身がモデルなのでしょうか。

 もう一人の登場人物、作家の「上原」が始終酒を呑んでいるのも太宰とカブります。
 『津軽』でも旅をしながら酒ばかり呑んでしたし。

読後は切なくなる

 「登場人物が書いた手紙を読んでいる」というスタイルが多く用いられ、読んでいるとまるで「登場人物が自分(読者)に宛てた手紙を読んでいる」気になります。

 自然作品に引き入れられます。

 ラストもスパッと終わり、余韻がたっぷり残ります。

 「滅びの美学」なんてはじめて使う言葉が浮かんできましたよ。
 

 

..................................
Category: オススメ本,小説 — written by tsujio 09.12.08.(火) 07:47

濃いー8作品を収録。『美食倶楽部』

美食倶楽部―谷崎潤一郎大正作品集 (ちくま文庫)

著者/訳者:谷崎 潤一郎

出版社:筑摩書房( 1989-07 )

定価:¥ 1,050

Amazon価格:¥ 1,050

文庫 ( 447 ページ )

ISBN-10 : 4480023291

ISBN-13 : 9784480023292



 開高健『最後の晩餐』に転載されていた『美食倶楽部』の一部を読み、“ぜったいこれは読もう”と決めていました。
 本書には『美食倶楽部』を含む大正期の谷崎作品が8編収められています。
 すべて「濃い作品」ですが、中でも特に印象に残ったものを。

美食倶楽部

 タイトル通りの内容ですが、食べている描写が“汁にまみれている”様を想像させます。
 “じゅくじゅく”いう音が聞こえてきそうですが、まったく汚らしくなく、「官能的」なんて言葉が浮かんだりしました。
 とても“汁っぽい”。
 

或る調書の一節

 警察(たぶん)での取り調べなんですが、内容とは裏腹にコントを読んでいるおかしさがあります。
 思わずバスの中で“なんやこれ”と笑ってしまいました。
 これは文中から何かを読み取るのではなく、ただ読んで笑う作品だと思います。

 読み終わったあと、良質の“だから何やねん”が出ます。
 こういう作品を書くのが谷崎潤一郎の好きなところです。

小さな王国

 これは『痴人の愛』のラスト部分を読んだときと同じ印象を受けました。
 この情けなさ、ペーソス、とても好きです。
 そしてやっぱり笑ってしまう。

白昼鬼語

 探偵小説風にグイグイ引き込まれて、最後のオチまで一気です。
 でも僕はこのラスト、それまでの話の勢いと比べると少し弱く感じました。
 辻褄なんて合ってなくて良いから、もっと突飛な変態的なオチがあったらなぁ。

青塚氏の話

 これのラストはちょっともう、それまで読んだ作品の余韻をかき消すラストです。
 「これを最後に持ってくるか」と編集者の意図を計りかねると同時に、「ようそんな昔にこんなの書いたな」とやはり谷崎潤一郎は(ある意味)すごいと思わざるを得ません。
 ダメな人も多そうですが。

オススメの一冊です

 殆ど全作品を揚げてしまいましたが、それほど濃い一冊です。
 全作品を通して感じるのは「古めかしさが全然ない」ということです。
 もちろん建物や風俗の描写は古めかしいものがありますが、それが余計に「怪奇」「ゴシック」な雰囲気を造り上げ、「ふしぎの館へようこそ」的な谷崎ワールドを造り出している気がします。

 発想力・アイデア勝負な一冊です。
 ぜひ一読を。

 最後に。
 表紙に谷崎の若いころの写真が載っていますが、往年の“堅太りおっさん”からは想像もつかないほど美男子です。

 あと、最後の「解説」はよくわかんない。

 

..................................
次ページへ »

Powered by maru2.jp   ver.090309.life.maru2.jp