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通勤で夢中になれる文庫本ブログ
Category: オススメ本,小説 — written by tsujio 09.08.25.(火) 07:00

『破戒』する

破戒 (新潮文庫)

著者/訳者:島崎 藤村

出版社:新潮社( 2005-07 )

定価:¥ 660

Amazon価格:¥ 660

ペーパーバック ( 500 ページ )

ISBN-10 : 4101055076

ISBN-13 : 9784101055077



島崎藤村が穢多・非人ををテーマに描いた作品。主人公は被差別部落出身の小学校教師。

穢多・非人は社会の授業で習っただけですが

 『たかじんのそこまで言って委員会』で猿回しの村崎太郎さんが自身は被差別部落の出身であることを話しておられました。
 また、野中広務も部落出身をカミングアウトしていると知りました。

 でも、部落差別に関心を持ったきっかけで大きかったのは白戸三平の『カムイ伝』を読んだからです。マンガですけどあまりに酷い生活してたので。
 主人公が“自身が部落出身者”でありそれを“カムアウトするかどうかで”苦悩する様は、『罪と罰』の主人公が自分の犯した殺人で苦しむ様とよく似ていました。
 
 “バレそでバレないうっふん”な状態に苦しみ続け、最終的に「破戒」する場面はドラマティックでした。

後書きがおもいっきり批判なんですけど

ぼくが読んだのは新潮文庫ではなく岩波文庫版です。

 「あーおもしろかった」と満足して『あとがき』を読むとこれが思いっきりこの小説の問題点の指摘です。
 解説者は野間宏

それゆえにこの小説は、部落の問題を本質的にはなんら解決しないところに結末を見いださなければならなかったのである。

あらら

この小説が差別される部落民の問題をとりあげ日本で最初の近代小説を確立しようとしながら、逆に多くの部落の人たちを傷つけ、苦しめてきた原因がある。

えー

“『破戒』も厳しい批判を受ける必要がある”

そんなに?!

 『少年H』を読んだときにも思いましたが、やはり「戦争」や「差別」を取り扱った小説は何らかの形で批判されるんでしょうか。

 でも『あとがき』でこんなこと書かなくてもいいのに。

 なんだかむずかしいですね。
 

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Category: オススメ本,海外小説 — written by tsujio 09.08.18.(火) 07:49

アイタタ『ミザリー』

ミザリー (文春文庫)

著者/訳者:スティーヴン キング

出版社:文藝春秋( 2008-08-05 )

定価:¥ 1,000

Amazon価格:¥ 1,000

文庫 ( 530 ページ )

ISBN-10 : 4167705656

ISBN-13 : 9784167705657



 1987年発表のサイコスリラー。1990年にロブ・ライナー監督で映画化もされ、主演のキャシー・ベイツがアカデミー主演女優賞を受賞。

キングの描写力がすごい一冊

痛いけどページを繰る手は止まらない

 痛い描写が多く、眉間にシワを寄せながらも続きが気になってグイグイ読んでしまう。そんな本です。
 キングの細かい描写で、主人公が監禁されている部屋が目に浮かぶよう。

 作家の主人公を監禁するもう1人の主人公、イカれたファンのアニーも実在する人物のようにリアルです。このリアルさが恐い。
 人間は恐いなぁ。
 また、その細かい描写のせいで痛い場面はホントに痛いです。

 伏線が張られたストーリーも説得力があり、“ええっ、そうだったの!?”という「ゾッ」とする展開の怖さもあります。

 キングが主人公に語らせる「小説の書き方」も興味深いです。キングはローレンス・ブロックのように「小説の書き方」の本は出さないんでしょうか。
 いづれ書きそうですが。

 現在のストーカーをもっとエスカレートさせたような登場人物は、20年以上前の作品という古さをまったく感じさせません。
 ぼくは和歌山カレー事件の林眞須美(はやし ますみ)死刑囚を強烈に連想しました。
 おもな登場人物はふたりだけ。キングってすごいな。

 とても痛いけど、とても面白い一冊です。

 オススメ。

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Category: オススメ本,海外小説 — written by tsujio 09.07.21.(火) 07:00

残ページを確認しながら『ストリート・キッズ』を読む

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

著者/訳者:ドン ウィンズロウ

出版社:東京創元社( 1993-11 )

定価:¥ 1,155

Amazon価格:¥ 1,155

文庫 ( 512 ページ )

ISBN-10 : 4488288014

ISBN-13 : 9784488288013



 「プロの探偵に家業のイロハをたたき込まれた元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する」(背表紙ママ)

ストリート・キッズをオススメする4つの理由

主人公が魅力的

 主人公のニール君がとても魅力的です。なんとなく表紙の絵に惹かれ買いましたが大当たりでした。同じく表紙に惹かれて買った人も多いみたいですね。
 最初の数ページで不幸な生い立ちが頭にインプットされるので、その後の軽妙な会話もなんとなく切ないです。
 ニール君への感情移入もスムーズでページを繰るスピードも速くなります。
 508ページと厚めの文庫本ですが、「アッ!・・・」という間に読み終えました。

会話が楽しい

 主人公を含め思わず“ニヤリ”としてしまうやりとりが多く面白いです。いちいち洒落が効いているというか。こういう会話がポンポン出るので読んでいてリズムが出ます。

展開に強弱がある

 このように読んでいて楽しいところは楽しくシリアスなところは徹底的にシリアスに描かれているため、読むリズムが出てどんどん話に引き込まれていきます。読んでいて「気持ちいい」というか。
 出社前に読むと続きが気になって仕事が手につかず何も仕事してないのに定時退社すること請け合いです。

文章は上手だと思います

 訳者(東江一紀)の文章力に寄るところも大きいと思いますが、会話は言うまでもなく場の状況や心理描写もスムーズです。

登場人物よりドン・ウィンズロウ(作者)のキャラが強すぎ

 マフィアが自分の赤ちゃん(人質ではありません)を背負って微笑んでいるような写真が載っていますが、作者の経歴もすごいです。

  • 俳優
  • ディレクター
  • 教師
  • 記者
  • 劇場支配人
  • 研究員
  • 臨時雇いの覆面警官
  • フレンチ・ドレッシングの大桶にケチャップをぶち込む係
  • そのドレッシングの配達係
  • どさ回りのボードビル劇団でブリキの横笛を吹いたり取り落としたりする役
  • テロリスト対策シミュレーションでの“人質”役

を経験しており、現在は「調査員兼作家兼サファリ・ガイド」。
アフリカ史の学士号と軍事死の修士号を持っているそうです。

 マジメなのかふざけているのか判りませんが、本作は「イギリス国防省の調査活動でロンドンにいたとき、背中の骨を折って、長い入院生活を送ることになり、それが記録的に暑い夏だったので、時間つぶしと現実逃避のためにストーリーを練り始めた」んだそうです。「特に取材をしたわけでもなく、自分の体験をもとに書いた」とも。

 真偽はともかく、人を喰っているのは間違いなさそうです。

 たまたま手に取った本がこれだけ面白かったのはホントにラッキーでした。
 ぜひ一読ください。

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Category: オススメ本,小説 — written by tsujio 09.07.15.(水) 07:51

無条件にお勧めしたい『青が散る』

青が散る〈上〉 (文春文庫)

著者/訳者:宮本 輝

出版社:文藝春秋( 2007-05 )

定価:¥ 540

Amazon価格:¥ 540

文庫 ( 318 ページ )

ISBN-10 : 4167348225

ISBN-13 : 9784167348229



青が散る〈下〉 (文春文庫)

著者/訳者:宮本 輝

出版社:文藝春秋( 2007-05 )

定価:¥ 490

Amazon価格:¥ 490

文庫 ( 322 ページ )

ISBN-10 : 4167348233

ISBN-13 : 9784167348236



大学を舞台にする青春小説。TBSでテレビドラマ化もされています。主役は若き日の石黒賢。

一気に読み終える

 残りページの厚みを左手で確かめながら“もうこれだけしか残ってない”のが判ったときは哀しかったです。
 読んでいる最中は物語にどっぷり浸りページを繰るのが早くなり、読後は思わず“あーおもしろかった・・・”とひとりごとがボソッと出てしまうくらい夢中で読み終えました。
 宮本輝はメジャーなので読むのは気後れしていましたが、この作品のあとは片っ端から読むようになりました。
 有名になるのはそれなりに理由があるのをしみじみ感じました。

魅力的な登場人物

 それぞれがすごく魅力的です。“あーおるおるこんな嫌なこと言うヤツ”“おるわこういう言い訳して逃げるヤツ”と感じるシーンがたびたび有り、登場人物の行動や言動に引き込まれます。宮本輝はホントによく人間観察しているなぁと思いました。感情の機微とか、本当に細かくてリアルです。

 あまりに登場人物に現実感があり、作者が実際過ごした大学が舞台なので“実際にあったことを登場人物も含めてそのまま回想して書いただけちゃうんか”と思いましたが「あとがき」に「よくそう言われるがこれはフィクションです」とありました。
 たしかにこう特殊な人生を背負った人たちが一カ所に集まることもないか、と納得したのを覚えています。
 それぞれキャラ強すぎるし。

かぐわしき青春の香り

 大学時代を無目的に過ごしてしまったぼくにとって、主人公達の大学生活から感じる若さや行動力、溢れるエネルギーはとても羨ましく感じました。
 “おれもこんな大学生活送りたかった”と夕暮れが差し迫る街並みを電車からひとり眺めながら猫背になるのでした。
 いーいなーいーいな、せーいしゅーんっていーいーなっ♪
 と『日本昔話』のエンディング替え歌をせずにはいられないくらい素晴らしいです。
 “一つのことに真剣に打ち込んだ経験がその人の人格を形成する上でものすごく大きいんだろうな”とあいまいな人生訓まで読み取ってしまう始末。

とにかく一読を

 ”やっぱり小説なんて作り話よりノンフィクションのほうがリアルで面白い。事実は小説より奇なりと言うし。より説得力のある非日常を感じるにはノンフィクションがいい”
立花隆が“小説はしょせんひとまとまりのウソ”なんて書いていたのをそのまま鵜呑みにしていました。

 小説が好きな人は「アラを探してやろう」「矛盾をついてやろう」なんて気持ちで読んでいるわけではなく、むしろ「積極的に騙してほしい。でも明らかにウソと判る話はやめてね。シラケるから」という気持ちで本をレジに運ぶのではないでしょうか。
 読んでいる間だけでもそれを「本当のこと」と信じさせてくれれば。

 でもこれだけ面白けく夢中になれればそれが作り話でもウソでも、そんなことはどうでもいいです。
 しつこいですが是非一読を。

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Category: オススメ本,小説 — written by tsujio 09.07.08.(水) 07:51

『野獣死すべし』で抱腹絶倒

野獣死すべし (光文社文庫―伊達邦彦全集)

著者/訳者:大薮 春彦

出版社:光文社( 1997-01 )

定価:¥ 620

Amazon価格:¥ 620

文庫 ( 363 ページ )

ISBN-10 : 4334723489

ISBN-13 : 9784334723484



 言わずと知れた大薮 春彦の代表作。松田優作主演の映画も有名です。

思わず吹き出してしまうおもしろさ

 まず、映画版の主演が松田優作ということでもわかるようにハードボイルドです。真剣な作品です。けっしてコメディではありません。
 それなのになぜ何度も吹き出しそうになるのでしょう。
 電車でずっとニヤニヤしてしまいました。

作者の本気度は本宮ひろしに通じる

 読んでいて頭に浮かんだのが『魁男塾』『サラリーマン金太郎』でおなじみ本宮ひろしです。作者の登場人物への無条件な入れ込み具合と無茶苦茶な状況設定がそっくりだと思います。
 荒唐無稽だけど大まじめ。
 主人公の伊達はきっとフンドシをしめています。
 
 ハードボイルドですから主人公は当然いろんなピンチに陥ります。
 
 絶体絶命のピンチ、“あきらかに死ぬやろ”という状況、「どうするんかな」とページをめくると“なんとか切り抜けた”の一言だけで切り抜けてしまいました。
 “それは物理的にムリやろ”という殺人的スケジュール、「さすがにこれはムリやで」とページをめくると“邦夫は超人的にそれをこなした”という一文だけでこなしてしまいました。
 
 作者のこの豪腕振り。漢(おとこ)らしい。
 「超人的に」って自分もちょっとムリがあると思ってるやん。
 
 こんな無茶苦茶な進め方ですが、作者の本気度にグイグイ引き込まれてしまいます。

この描写はいるんか?

 ちなみに主人公に狙われた標的(ターゲット)はほぼ例外なく失禁し、あまつさえ「脱糞」までしてしまいます。

 「脱糞」て。人は生命の危機を感じると脱糞してしまうんですね。逆に括約筋なんかは緊張で締まると思っていましたが。勉強になりました。

 きっと作者は「生理的現象に及ぶ」恐怖を描写しているのでしょうが逆効果です。
 登場人物が失禁する度に「またか!」と大笑いです。「脱糞」までされた日にはたまりません。

作者の立ち位置というか視点というか

 作者が主人公を見る目線や描写する目線はキリストや仏陀、マホメットでも良いですが、「数々の奇跡を起こすカリスマ」の行動を横でノートに記録する従者のようです。
 大藪春彦は主人公の伊達を本気で“すごい”と思っていると思います。心から。
 このイタさがたまらん。

文体に慣れるだけ

 最初は大薮 春彦独特の“ハードボイルド文体(あるんか?)”に馴染めず、“読みにくいなぁ”と思いましたがすぐに慣れました。慣れれば先には抱腹絶倒の世界が待っています。楽しみ方としては間違っているかもしれませんが。

ハマる人はハマると思う

  ぼくが感じるおもしろさは“ここまでバカらしいことを本気で大まじめにしている”おもしろさで、すこし穿った読み方です。多くの方がこの作品に感じる面白さではないかも知れません。
 少なくともこの本を読んで電車で声を出さずに笑う努力をした人も少ない気がします。

 断っておきますが、ぼくは馬鹿にしているのではなく、本気でおもしろい、すごいと思っています。
 なかなかこんなの書ける人いない気がする。入り込める力があるというか。

 すっかり魅了されてしまいましたので、『蘇える金狼』『汚れた英雄』も読んでみよう。

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